予算策定とは、企業が一定期間の売上や経費の予測と目標を設定し、利益目標の達成に向けて計画を立てるプロセスです。予算策定にはトップダウン方式とボトムアップ方式があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。トップダウン方式では経営トップが全社目標を設定し、各部門に割り当てる一方、ボトムアップ方式では各部門が自部門の予算を策定し、それを積み上げて全社の予算を決定します。予算管理の具体的な手順には、経営戦略の決定、各部門の予算案作成、予算案の調整・最終決定、予算の実行とモニタリングが含まれます。適切な予算策定は、企業運営の効率化や迅速な意思決定、リスク管理に役立ち、組織全体の目標達成に向けた一体感を高める効果があります。
1.予算策定の概要と実務上の課題
予算策定とは、企業が一定期間(通常は1年間)の事業活動について、売上高や費用、利益などの目標値を設定し、それを達成するための計画を立案するプロセスのことです。予算は、経営計画を数値化したものであり、企業活動の指針となります。
予算の種類
予算には、以下のような種類があります。
- 売上予算:売上予算は、一定期間内における製品やサービスの販売収益を予測し、設定するものです。これには、販売数量、単価、販売チャネル別の収益見込みなどを考慮します。売上予算は、企業の収益目標を明確にし、営業戦略やマーケティング活動の計画に役立ちます。
- 原価予算:原価予算は、製品やサービスを生産するために必要なコストを見積もるものです。これには、材料費、労務費、製造間接費などが含まれます。原価予算は、コスト管理と効率的な生産プロセスの確立に寄与し、利益率の向上を図るための基盤となります。
- 経費予算:経費予算は、企業の運営に必要な全ての費用を予測し、計画するものです。具体的には、販売費、一般管理費、研究開発費、広告宣伝費などが含まれます。経費予算は、コストコントロールを通じて企業の健全な財務状況を維持し、無駄な支出を抑制する一方で、適切な費用配分を行っていくために重要です。
- 利益予算:利益予算は、売上予算から原価予算と経費予算を差し引いた後の予想利益を計画するものです。これにより、企業の収益性や投資収益率を把握し、株主への還元や再投資計画の策定に役立ちます。利益予算は、経営目標の達成状況を評価し、将来の戦略的意思決定の基礎となります。
予算策定の意義
予算策定には、以下のような意義があります。
- 経営目標を明確化し、全社的な目標達成に向けて組織を動かすことができる
- 資源配分の最適化を図ることができる
- 予算と実績の差異分析を通じて、目標のPDCAサイクルを回すことができる
- 予算の柔軟性
一方で、環境変化の激しい現代においては、期首に立てた予算通りに事業を運営することが難しいケースも増えています。そのため、予算の柔軟性を確保することも重要です。 例えば、四半期ごとに予算を見直したり、一定の範囲内で予算を部門間や費目間で流用できるようにしたりするなどの工夫が求められます。
実務上の課題
予算策定には、以下のような実務上の課題が伴うことが少なくありません。
- 各部門の予算の積み上げと、トップダウンの予算方針とのすり合わせが難しい
- 業績評価との連動がうまくいかず、予算が形骸化してしまう
- 環境変化に応じた予算修正がタイムリーにできない
- 予算策定は、経営管理の根幹をなすプロセスですが、その運用には高度なマネジメント力が問われるのです。
2.予算策定の目的と効果
予算策定は、企業の経営戦略を実行に移すための重要なプロセスです。予算策定は単なる数字の計画に留まらず、組織全体の目標達成や経営改善に直結する要素を含んでいます。本章では、予算策定がもたらす具体的な目的とその効果について詳しく説明します。
目標を明確化できる
予算策定では、売上予算や利益予算としてその年度の目標を数字で明確に示すことができます。具体的な数値目標を設定することで、企業が目指すべき方向性が明らかになり、全社一丸となって目標達成に取り組むことができるのです。
モチベーションアップにつながる
数字として目標を示すことは、従業員のモチベーション向上にも効果的です。自分たちの仕事が会社の目標にどのように貢献しているのかが明確になることで、日々の業務にメリハリが出ます。 目標達成に向けて、一人ひとりが主体的に行動するようになるのです。
経営の改善につながる
予算管理は、予算策定と実績評価のプロセスから成り立っています。予算と実績を比較し、差異の要因を分析することで、経営上の課題を発見することができます。例えば、売上が予算を下回っている場合、その原因を探り、販売戦略の見直しや経費削減などの改善策を講じることができるのです。
このように、予算策定は単なる数字合わせではなく、経営管理のPDCAサイクルの起点となる重要な取り組みです。適切な予算を設定し、その達成度をモニタリングしていくことが、企業の継続的な成長と発展につながっていくのです。
3.予算策定の具体的フロー
予算策定の具体的なフローは、大きくトップダウン方式とボトムアップ方式の2つに分けられます。
トップダウン方式は、経営トップが企業全体の目標利益を設定し、それを各部門に割り当てる方式です。この方式では、経営戦略に基づいた予算配分が可能で、全社的な最適化を図りやすいというメリットがあります。一方で、現場の実情を反映しにくく、部門間の調整が難しいというデメリットもあります。
ボトムアップ方式は、各部門が自部門の予算を策定し、それらを積み上げて全社の予算を決定する方式です。この方式では、現場の声を反映した予算策定が可能で、部門の自主性や責任感を高められるというメリットがあります。 反面、全社最適の観点が欠如しがちで、予算策定に時間がかかるというデメリットもあります。
実際の予算策定では、この2つの方式を適切に組み合わせることが重要です。例えば、経営トップがある程度の枠組みを示した上で、各部門の裁量を認めるような折衷的な方式が考えられます。
また、予算策定のフローとしては、以下のようなステップを踏むのが一般的です。
- 経営戦略・目標利益の決定
- 各部門の予算案の作成
- 予算案の調整・最終決定
- 予算の実行とモニタリング
まず経営トップが企業全体の戦略と目標利益を決定し、それを踏まえて各部門が予算案を作成します。次に、部門間の調整を経て予算案を最終決定し、年度を通じて予算の実行状況をモニタリングしていきます。
予算策定のフローを適切に設計し、トップダウンとボトムアップのバランスを取ることが、効果的な予算管理につながるのです。
3-1.トップダウン予算策定のプロセス
トップダウン方式の予算策定プロセスは、以下のようなステップで進められます。
経営計画・方針から全体の目標を設定
まず、経営トップが中長期的な経営計画や方針に基づいて、企業全体の売上高や利益などの目標を設定します。この目標は、市場環境や自社の強み・弱みを分析した上で、達成すべき水準として定められます。
部署ごとの予算を決定する
次に、全社目標を踏まえて、各部署に対して個別の予算が割り当てられます。経営トップは、部署ごとの事業計画や戦略的位置づけを考慮しながら、売上高・利益・コストなどの目標を設定していきます。 各部署の予算は全社目標の達成に向けて、トップダウン式に決定されます。
部署間の調整を経て全体の予算を確定
各部署に割り当てられた予算案を集計し、全社レベルで予算を取りまとめます。その際、部署間で重複や齟齬がないか、全体最適の観点から調整を行います。 経営トップは、部署間の交渉を主導しながら、最終的な予算案を確定していきます。
トップダウン方式では、このように経営トップの強いリーダーシップのもと、企業全体と部署個別の目標を連動させながら予算を策定していきます。トップの戦略的な判断を予算に反映させつつ、部署間の整合性も確保することで、効率的な経営管理が可能になるのです。
3-2.ボトムアップ予算策定の流れ
ボトムアップ方式の予算策定プロセスは、以下のような流れで進められます。
部署ごとに目標を設定する
まず、各部署が前年度の実績や事業環境の変化などを踏まえて、自部署の目標を設定します。例えば、営業部門であれば売上目標、製造部門であれば生産数量や原価率の目標などを立てます。 現場の実情に精通した部門長が中心となって、達成可能な目標を設定するのです。
部署ごとの目標を積み上げ全体の予算を決定する
各部署で設定された目標を、経営管理部門が集計し、全社レベルの予算案を作成します。部署ごとの予算を積み上げていくことで、会社全体の売上高や利益などの予算が決まっていきます。その際、経営管理部門は各部署の予算の整合性をチェックし、必要に応じて調整を行います。
予算を全社的に共有する
ボトムアップで策定された全社的な予算は、経営会議などで承認を受けた後、改めて各部門に共有されます。自部署の目標だけでなく、他部署の目標や会社全体の方針を知ることで、部門間の連携を促すことができます。全社的な予算を共有することは、組織の一体感を高める上でも重要な意味を持つのです。
ボトムアップ方式の予算策定は、現場の知見を活かしつつ、全社的な整合性も確保するプロセスだといえます。各部門の自主性を尊重しながら、会社全体の目標達成に向けて組織をまとめていく。それがボトムアップ方式の本質なのです。
4.予算策定を成功させるポイント
予算策定は、企業の経営戦略を具現化し、効率的な資源配分を実現するための重要なプロセスです。しかし、予算を単に策定するだけでは十分ではありません。成功する予算策定には、いくつかの重要なポイントがあります。本章では、具体的な目標設定、定期的な実績評価、そして業務担当者の当事者意識という三つの要素に焦点を当て、それらがいかにして効果的な予算策定と管理に寄与するかを詳しく説明します。これらのポイントを押さえることで、企業はより現実的で達成可能な予算を策定し、持続的な成長を実現することができます。
具体性のある予算策定を行う
予算策定を成功させるためには、具体性のある数字を設定することが重要です。現実離れした高すぎる目標は「絵に描いた餅」に終わる恐れがあります。トップダウンの予算策定ではこれが起こりがちです。かといって、あまりに無難な数字では、組織に緊張感が生まれません。ボトムアップでは担当者が保守的になりがちな傾向にあります。適度な野心と現実味を兼ね備えた、具体的な数値目標を立てることが肝要なのです。
実績評価を定期的に行う
予算の実効性を高めるには、定期的な実績評価が欠かせません。営業年度末の決算だけでなく、月次や四半期ごとに予算と実績を突き合わせることが重要です。計画と実績の差異を早めに把握することで、対策を講じる時間的余裕が生まれます。定期的なモニタリングは、予算管理のPDCAサイクルを回す上で不可欠なプロセスなのです。
業務担当者が当事者意識を持つ
予算策定には、その業務・部門の担当者が主体的に関与することが望ましいです。経営トップの指示を受け身で消化するのではなく、業務担当者自らが予算の当事者となることが重要です。自分たちで立てた目標であれば、達成に向けて能動的に行動できます。「会社に言われたからやる」という他人事の態度では、真の成果は得られません。
予算策定の成功は、組織のコミットメントにかかっているといっても過言ではありません。具体的な数値を設定し、定期的に評価を行い、メンバー全員が当事者意識を持つ。これらの要素が揃って初めて、予算は経営における羅針盤としての役割を果たすのです。
5.予算策定を効率化するSactona(サクトナ)
以上、予算策定についてお伝えしました。予算策定は、企業の経営活動において極めて重要なプロセスです。適切な予算策定は、企業の資源を最適に配分し、戦略的な意思決定を支える基盤となります。これにより、企業は目標を明確にし、効率的にリソースを管理することが可能となります。また、予算策定はリスク管理にも寄与し、予期しない事態に対して迅速かつ効果的に対応するための準備を整えることができます。予算が適切に策定されることで、企業全体の一体感が高まり、組織の各部門が共通の目標に向かって連携しやすくなります。したがって、予算策定は企業の持続的な成長と成功に不可欠な要素と言えるのです。
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